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ベンチャーのCEOの報酬額(第2回)

会社を新たに興し創業者となる場合に「役員報酬をいくらにすればよいのか」という意外と難しい問題に直面するかもしれません。ほとんどの創業者はそれまで自分の給料を決めた経験などなく、他の創業者もその性質上自分の報酬を開示したがらないため、参考情報を得ることが難しいものです。

ベンチャーの役員報酬についてこれから大まかな考え方を全4回にわたり説明していますが、明確な算定方法が規定されている訳ではないため、一般的に適正額と思われる目安を記載するにとどまります。ベンチャーの役員報酬を決定する際、参考情報となれば幸いです。


今回は第2回目となります。




3. 役員報酬の一般的な決定方法

前回の1.最初に考慮する要因で記載した通り、スタートアップの役員報酬を決定する際、①バーンレートを低く抑えたい②最低限の生活ができなければならない、の2点を真っ先に考えるでしょう。しかし本当にこの2点だけ考慮すれば良いのでしょうか。

会社の利益水準から支払う事の出来る役員報酬額を逆算する方法も、決め方の一つとしてあげられるでしょう。この場合、下記のような流れが一般的です。

   事業計画の立案

      ↓

   利益水準の決定

      ↓

   役員報酬を算定


しかし、スタートアップの場合は売上高が少額のため赤字であることが一般的であり、会社の利益水準を参考に役員報酬を決定することは難しいことが多いです。そこで前述の2要素に他の考慮要素も加えた下記に列挙するような条件から、役員報酬額を決定することになります。

① バーンレートを低く抑えたい

② 最低限の生活ができなければならない

③ ファイナンスの今後の予定

④ 従業員の給与水準

⑤ 税務上の規定



ⅰ) ファイナンスの今後の予定

会社のバーンレートが把握できていれば、資金があと何か月持つのか計算できます。資金が耐えられる期間が把握できれば、支払える役員報酬も算定できます。このように会計上の利益よりも、資金繰り状況から役員報酬額を決定する事になります。従って、次の資金調達の時期や金額は、役員報酬を決めるにあたり重要な決定要素となります。

【資金繰りからの算定手順】

   資金繰り計画の立案

      ↓

   資金猶予期間の算定

      ↓

   将来ファイナンス計画

      ↓

   役員報酬を算定


また、デッドとエクイティのいずれで調達するのかという点も、判断するポイントとなります。つまり、デッドで資金調達を予定している場合、会社の黒字額を確保もしくは大きく見せる必要があります。これに対し、エクイティで資金調達を予定している場合、ビジネスモデル、マーケット環境、経営陣のメンバーなどが重視されるため、役員の報酬を高くし、優秀なメンバーに参画してもらう方が良い結果となることもあります。


ⅱ) 従業員の給与水準

優秀な従業員を採用したければ報酬水準は高く設定したい一方で、バーンレートの観点からは低く抑えたいものです。従業員の給与水準は、この相反する要因を考えながら決めることになるかもしれません。


多くの会社では、CEOの報酬額が会社の給与水準として最も高いことが一般的です。このためCEOが適切な報酬額をもらっていない場合、他の役員や従業員の給与水準は低くなります。CEOの報酬額は、その会社の上限額として機能する傾向にあることを覚えておく必要があります。

もちろん役員報酬を低く抑える代わりに株式やストックオプションを付与している場合は、状況は多少異なり、株やストックオプションを付与されていない一部の従業員の給与が、役員報酬より高くなることを容認する必要があるかもしれません。



余談ですが筆者はかつて、役員に株式を付与する代わりに役員報酬を低く抑える報酬体系を、意図的に導入している会社に関与したことがあります。つまり役員報酬が低いことを理由に従業員の給与水準も低く設定し、会社全体の人件費を抑えていたのです。しかし長期的には従業員に不満が蓄積し、エンジニアを中心に相当数の従業員が給与の良い会社に一斉に転職し、組織が壊滅的になりました。人件費を抑える賢い経営戦略ですが、あまりにも行き過ぎることが無いように気を付ける必要があります。


ⅲ) 税務上の規定

税務上の規定は、想定外の課税が発生しないように検討します。次回に記載する5.税務上の視点を参照ください。



次回は役員報酬と給与の標準例を考察してみたいと思います。


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