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ベンチャーのCEOの報酬額(第1回)

会社を新たに興し創業者となる場合に「役員報酬をいくらにすればよいのか」という意外と難しい問題に直面するかもしれません。ほとんどの創業者はそれまで自分の給料を決めた経験などなく、他の創業者もその性質上自分の報酬を開示したがらないため、参考情報を得ることが難しいものです。

ベンチャーの役員報酬についてこれから大まかな考え方を全4回にわたり説明していきますが、明確な算定方法が規定されている訳ではないため、一般的に適正額と思われる目安を記載するにとどまります。ベンチャーの役員報酬を決定する際、参考情報となれば幸いです。




1. 最初に考慮する要因

役員報酬を決定するときに、下記の相反する要因がまず検討事項として頭に浮かぶのではないでしょうか。


① バーンレートを低く抑えたい

② 最低限の生活ができなければならない



ⅰ)バーンレートを低く抑えたい

赤字体質のスタートアップにとりバーンレートは最重要指標であり、あと何か月資金が持つのか常に意識しながら経営に臨むものです。このため創業者はバーンレートを低く抑え、資金の溶ける速度を極力落としたいと考えるのは当然です。このような事業環境のスタートアップにとり、創業者の役員報酬は簡単に減らすことの出来るコストであるため、バーンレートを低く抑えるため創業者自らの役員報酬を減額する誘因があります。


ⅱ) 最低限の生活ができなければならない

スタートアップの創業者の中にはバーンレートを極力抑えた結果、役員報酬ゼロや月5万円しか取らずに堪えぬいたと武勇伝を語る人がいます。しかし他に収入が無い場合、このような役員報酬を殆ど取らない生活は長く続けられるようなものではありません。特に家庭を持ち子供の養育費が必要な創業者の場合、家族の将来まで犠牲にしてしまう可能性するあります。いわゆるJカーブの底を打ち利益体質になるまでには、通常は創業から3~5年程度はかかるため、適切な報酬をもらわない生活はお勧めしません。


また適切な報酬をもらわない場合、創業者が他の会社に就職すれば適切な給料をもらえることになるため、事業が立ちいかなくなった際、すぐに事業を投げだし他社に行ってしまうのではないかと、VCや従業員は疑念を抱くことになります。また人脈形成のための活動、本の購入やセミナーヘ参加などの知識の吸収、健康管理やトレンドの追求にもお金は必要であり、これらがおろそかになってしまうと経営者としての能力が発揮できないかもしれないことも懸念されます。



2. やってはならない選択

創業者、特にワンマン創業者がやりがちな問題ある行動を一つ紹介しておきます。それは自分の報酬下げて(報酬を下げない場合もありますが)、その一方で個人的な支出を会社の経費として処理することです。これは下記に挙げるような諸々の問題があり、弊害が大きいため採るべきではない選択肢となるでしょう。具体的な弊害は下記のものが挙げられます。

イ) 従業員のモチベーションの低下

ロ) 想定外の課税が発生


従業員のモチベーションの低下が一番懸念される弊害と言えるでしょう。創業者が個人的支出を会社経費にすると、創業者がいくら経理部に対し口止めをしても、ほぼ間違えなく社内に知れ渡るものです。この噂を耳にした従業員は、創業者が会社を私物化していると感じるため、「良い会社をつくり企業価値を上げたとしても得するのは創業者だけ」と考えるようになります。その結果、従業員全体のモチベーションを上げることは、非常に難しくなります。


税務上は一定の課税リスクを抱え、会社経費にしない時と比較して、課税額が多くなるので注意を要します。詳細は後日掲載する、5.税務の視点 ⅲ)個人的支出を会社経費とする場合、を参照ください。



いずれにせよ、このような個人的な支出を会社経費にする取引は、IPOを目指すベンチャーは、IPO準備段階において主幹事証券や監査法人から是正を求められることになる点は、ご留意ください。


次回は役員報酬の一般的な決定の仕方について触れていきます。


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