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SPACブームに歯止め?


SPACは特別買収目的会社(Special Purpose Acquisition Company)のことで、一般的事業会社と異なり自ら事業を行うことはせず企業買収するための箱となる会社であり、買収を成功させるとターゲット企業と合併し消滅します。

アメリカ市場ではSPACを活用したIPOが過熱していますが、米国証券取引委員会(SEC)がSPACに関連するガイダンスを打ち出したことが要因となり、ブームに歯止めがかかりそうな様相を呈しています。




1. SECの方針

SECは初期投資家に付与する新株予約権を資本性と看做さず会計上の負債とする可能性がある、という内容の新たなガイダンスを2021年4月12日に発表しています。

このガイダンスがだされたことにより、SPACスキームを活用しようとする企業は、初期投資家に付与する新株予約権の扱いが明確になるまで負債額と純資産額が明確にならず、結果としてSPACの届出を進めにくくなることを意味しています。これからSPACスキームを検討する企業は、ひとまず様子を見ようと判断することが予想されています。




2. SPACがもてはやされる理由

① 金余り

金余りのご時世で、金の行き場となっている点が挙げられます。

コロナ禍により世界中で経済が失速している一方で各国はお札を刷る傾向にあり、余ったお金の行く先が求められます。その結果、SPACという新たなスキームに資金が一斉に流れ込んでいるというのが、マクロ的な視点です。



② 緩いIPO審査

SPACは上場するときはほぼ空箱であるため、IPO審査をするにも限定的な審査のみしか行われません。上場後に企業を買収した場合、事業実態のある企業が上場審査基準を満たすかどうかについて、特に審査されないことになります。


このSPACスキームに関するIPO審査の実態を前向きにとらえると、買収される企業はIPOをスピーディーにかつコストの節約を実現できることになります。IPO審査をクリアするためには準備に手間とコストを投じ、上場企業に見合う体制を構築する必要があることは知られていますが、これを省くことが可能となります。


対して後ろ向きにとらえると、実態ビジネスを有する企業に対する審査が甘くなるため、上場企業にふさわしくない企業に上場を許すことになります。多くの関係者が警戒感を示すのは、上場審査を受けた場合上場することができない企業がSPACスキームを利用して上場する、いわゆる「裏口上場」でしょう。コンプライアンスに問題のある企業や反社会的勢力に該当する企業のようなグレーゾーンの企業は、法整備の間隙を利用することに長けていることが多く、SPACスキームを裏口上場に利用することを懸念しているのです。




3. SPACの問題事例

アメリカではニコラという会社がSPACスキームにより上場しています。二酸化炭素を排出しない大型トラックの開発をビジネスにしているため、一般的なイメージも非常によく、上場後の株価は高値を付けたようです。しかし投資会社のレポート内で、ニコラの技術は嘘なものが含まれていると報告されてから、株価が暴落し混乱に陥ったようです。

適切な上場審査を経た場合でも、このような企業を適切に審査や評価を行えるのかは不透明です。しかし技術に問題があるのを知りながら、上場審査をかいくぐる方法としてSPACスキームを利用していたことは確かなので、裏口上場の手段と批判されることは避けられないのかもしれません。




4. SPACの問題点

投資から回収までの時間を短縮できるメリットを考えると、VCやエンジェル投資家にとってSPACスキームは是非とも活用したいインセンティブが働きます。そしてベンチャーの経営陣からしてもIPOを早くかつ簡単に達成できるとなれば、SPACスキームを喜んで選択することでしょう。


この点から社会的に意味のある事業を育てるという観点より、マネーゲームにシフトすることが懸念されます。またベンチャー企業のオーナーからすると、上場基準を満たしていなくてもSPACに買収されることでIPOを実現し、かつ株式を売り抜けて創業者利益を得ることもできます。SPACに買収された時点で株式の大半もしくは全株を売却する場合、その後の経営に対するモチベーションを維持できるかどうかも懸念されます。




5. さいごに

現時点ではSPACの導入に関して一切情報はありません。しかし、もし導入された場合は相当の注目を集めるとともに、最初は上場審査を通ることのできない会社や素性の良くない相当数の会社が紛れ込むような予感がします。そして問題が生じた後、一定の規制が設けられることになるのでしょう。

この悪い予感が的中しないように、日本はアメリカ市場から多くのことを学んでもらいたいものです。


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