ベンチャー企業がベンチャーキャピタル(VC)やエンジェルから資金調達した、との話をよく耳にします。しかしいざ資金調達を行うとなると、どのような知識や考え方をインプットする必要があるのか分からない方もいることでしょう。そこで今回はVC等から資金調達をするにあたり、最低限知っておくべきことを解説したいと思います。
今回はその後編で、数値を用いた実例を見ていきます。

具体例
① 未上場の場合
以下の条件で考えてみましょう。
設立時: 1株あたり5を100株の出資で会社を設立した。
増資時: 1株あたり200と価値が向上しており、20株新規発行により増資する。
この条件の場合、第三者割当増資を行う前の評価であるプレ評価は20,000(=@200×100株)であり、第三者割当増資後の評価であるポスト評価は24,000(=@200×120株)となります。このように調達した分だけ会社価値は増加します。
VCやエンジェルから資金調達をする際に最も重要となる情報の一つが、プレ評価時点の会社価値です(前述したバリュエーションで算定するものです)。このプレ評価を基にVC等と交渉し調達条件を決めることになります。ただ創業者は新規に発行する株数を抑えつつ多額の調達をしたいため、一般的に高い会社価値を提示するものです。この対策としてVCは、種類株式を活用することが多くなっています。

② 上場後の場合
上場会社が第三者割当増資を行う場合、未上場会社の第三者割当増資の場合と少々考え方が異なります。第三者割当増資により得たキャッシュを投資する新規事業が、既存事業より効率的に稼げないと株主が判断した場合、株価は下落します。反対に、新規事業が既存事業より効率的に稼ぐことが出来ると株主が判断すれば、株価は上がります。このため未上場の場合のように、調達額相当分だけ会社価値が上がるような単純なものではなく、株主の考え方が影響することになります。
第三者割当増資を行った結果、1株あたりの価値が下がることを希薄化(ダイリューション)と呼びます。下図の例は、新規投資案件が上手くいかず増資の前後で会社価値が全く変わらない事を想定したもので、増資前100株を保有していた株主は、第三者割当増資を行ったために、1株あたりの価値は@200から@166.7へ下がっており、価値が希薄化されています。もちろん、新規投資案件がよりリターンを生み出せば、価値は上がります。このように、増資により得た資金を投下する新規投資案件の成否が、既存株主のキャピタルゲインを決めることになります。

創業者とVC等の立場の違い
上記の例では、会社設立時は1株あたり5で創業者は出資したのに対し、VC等は1株あたり200で増資を引受けています。このような価値の違いは、事業の立ち上げを終え、ビジネスモデルが出来上がり、キャッシュを稼げるようになるにつれ会社価値が上がるため、これが反映された結果です。
これに対しシェアを見るとは、創業者がマジョリティを持ちVC等がマイナリティとなる状態が健全であると考えられます。VCによっては創業者から経営権を奪っても創業者より上手く経営できないことを理解しているため、マジョリティを握っても困ることになります。VCからすると一般的には、高い株価で引き受けかつマイナリティしか保有できないため、創業者と比較して不利に見えます。
しかし創業者は、全精力を事業に傾け時には生活を犠牲にしながら事業を運営していくのに対し、VC等は資金を提供するだけです。掛ける労力や犠牲にするものを考えれば、これだけ条件に差がつくのは当然なのかもしれません。
今回は資金調達概論のため広範囲にわたって説明しました。資金調達を検討する経営者であれば、知っておく必要のある内容ばかりであるため、理解してみてはいかがでしょうか。