「CFO」(Chief Financial Officer:最高財務責任者)は、一言でいうと「経営管理担当の参謀」の役割を担うことになります。それでは、同じく経理・財務部門を担当する「経理部長」との違いは何でしょうか?
ここでは、「CFO」が果たす役割を中心に、「経理部長」との違いについてお話したいと思います。
経営者として攻守を共に考えて意思決定を行うCFO
「CFO」は文字通り経理・財務部門の最高責任者ですが、同時にその会社の「経営者」でもあります。(通常、取締役や執行役員等であることが多い。)つまり、自分の管掌範囲に留まらず、会社全体の経営責任を負っていることになります。「経営者」としてやるべきこと、それは会社全体での意思決定を行うことです。当然ながら、「CFO」として財務・経理の知見を元に、会社全体のガバナンスや管理が適切になされ、会社および事業が継続できるように「保守的に」意思決定をしていくことになります。
一方で、会社経営を進めていく中では常に不確実性が伴います。また中小・ベンチャー企業においては、ヒト・モノ・カネのリソースが十分でない中でも意思決定を迫られるケースが多くあります。特に、資金調達や設備投資、M&A等の意思決定においては、「守り」だけではなくある程度のリスクを負って「攻め」の意思決定をしなければ、次の成長戦略を実現できないことも多いでしょう。そういった意味で、「CFO」は「経営者」として、不確実性やリソース不足といった中でも、常に攻守共に考えながら意思決定を行う、という重要な役割を担っています。
一方で、経理部長は経理・財務部門の責任者であり、かつスペシャリストとしての役割を果たすことになります。最も重要なのは、会社として必要な決算を正しく遅滞なく行い、適切に計算書類等の開示をして、正しい税務申告を行うことです。また会社の経営見通しについても、常に保守的で確度の高いものをまとめていくことになります。つまり、定められた手続き・ルールに則り、かつ会社財産を保全する為に、できる限り保守的に対応していくことが求められます。「まずは守りを固める」ことになるので、そういった意味では前述の「CFO」のスタンスとは異なっています。

CEOの最大のフォロワーにもなりブレーキ役にもなるCFO
次に「CFO」としての重要な役割は、「CEO」(=経営トップ)とのコミュニケーションです。「CEO」(=経営トップ)と「CFO」がしっかりとタッグを組み、二人三脚で経営を推進していくことは非常に重要です。その中で、「CFO」は「CEO」(=経営トップ)の想いや実現したいことをしっかりとくみ取った上で、まずはそれらが実現できるようにサポートすることが求められます。
一方で、「CEO」(=経営トップ)のリクエストを実現しようとすると、明らかに会社として問題が発生したり、会社や事業の継続性が危ぶまれたりするような場合(例えばコンプライアンスに関わる問題、資金不足、極めて高い経営リスクを持つ事項等)は、「CFO」は全力でこれを止めなければなりません。そういった意味で、「CFO」は「CEO」(=経営トップ)の最大のフォロワーにもなりうるし、ブレーキ役に徹することもあるのです。

「経理部長」でも、「CEO」(=経営トップ)をはじめ、会社の経営陣とコミュニケーションをとるケースはあるでしょう。しかし、あくまで「報告」であったり、「進言」であったりというレベルであって、「全力でサポートする」あるいは「体を張って止める」という局面はなかなかないと思います。
全社経営の為に「CEO」(=経営トップ)と1on1で真剣勝負をする、これは「CFO」の醍醐味であり、また難しさでもあると言えるでしょう。
企業価値最大化に向けて株主と向き合うCFO
会社には当然「株主」が存在します。創業オーナー、投資ファンド、親会社がその一例ですし、あるいは上場後であれば多くの機関投資家・個人投資家が存在することになります。これらの「株主」に対して、会社の現況や将来のあり姿について、「CEO」(=経営トップ)と共に会社の代表として考えを伝え、適切なコミュニケーションを図ることも「CFO」の重要な役割の一つです。
この点、「経理部長」もこのようなコミュニケーションを求められることもありますが、あくまで経理・財務の観点から財務諸表をベースに話をすることに留まるケースがほとんどでしょう。
一方で、「CFO」は「企業価値最大化」という観点から、各事業戦略と紐づく「資金調達」「資本政策」「M&A」「設備投資」等のポイントを含めて、単なる数値の説明だけではなく、その背景やストーリーを語れるスキルが必要となります。「CFO」は、自社の置かれている状況や今後の戦略を株主に十分に理解していただけるようにコミュニケーションを図り、結果としてコミットした目標を達成することで企業価値を向上させ、配当や株価の上昇等によって株主の期待に応える、このサイクルを実現させることが求められているのです。
「経理部長」と同じ経理・財務というバックグラウンドを持ちながらも、「経営者」として全社の経営に責任を持ち、「CEO」(=経営トップ)のサポートをしながら意思決定をし、「株主」と対話をしながら企業価値向上を実現する、これこそ「CFO」の果たすべき重要な役割なのです。

執筆者プロフィール : 水野靖彦
株式会社プレアス 代表取締役社長
一般社団法人日本パートナーCFO協会会員
慶應義塾大学商学部卒業。グロービス経営大学院経営研究科修了。
松下電器産業(株)(現パナソニック(株))、(株)ファーストリテイリング、(株)テイクアンドギヴ・ニーズにおいて、財務経理・経営企画・IR業務等に従事。2015年より複数の会社において、CFO(最高財務責任者)として取締役・執行役員・管理本部長等を歴任し、事業承継、事業再生、資金調達、M&A、PEファンド対応、グループ再編、上場準備等の幅広い対応をしながら中小企業の管理部門を一から立ち上げる経験を持つ。
2019年8月 株式会社プレアスを設立、代表取締役社長就任。
「社外パートナーCFO」として、ベンチャーや中小企業において、付加価値を生む経営管理の仕組み構築と経営人材の育成をメインとする経営支援事業を開始。