経営者が集まる場に参加すると、従業員の大量退職に悩み、従業員の退職をいかに減らすかという議題に知恵を絞っている光景に、出くわすことは珍しくありません。しかし効果的な解決策が出てくることは無いようです。大量退職が起きる会社の社長は、従業員の気持ちが理解できないためでしょう。女心を理解できない筆者みたいなものですね。
経営者の集まる場では、最終的にビジョンやクレドが従業員に浸透していないことが従業員退社の原因とされ、ビジョンやクレドの浸透を徹底することが最善策として結論づけられているようです。
なぜ大量退職が起きるのか考えてみましょう。

退職のコスト
従業員が退職するとどのようなネガティブな影響が会社にあるのでしょうか。従業員の退職の伴い生じるコストの一例として、下記のようなものが考えられます。
・新たな人員の採用
・エージェントへの紹介料
・採用面接等の業務増加
・退職者から業務の引継
・社内の雰囲気の悪化
更に業績が悪い会社の特徴として、引継がうまく行われない傾向にあるようです。このため退職が数回継続すると、後任者の業務の質が低下してトラブルが起きるようになります。逆に言えば、退職者の業務を上手に引き継ぐ方法を確立させることは、良い会社をつくる一つの条件となります。
ビジョンやクレドが役立つとき
さて、経営者の集いでは、退職に対する解決策としてビジョンやクレドの浸透を徹底させることに結論付けられることが多いと前述しました。
ここでビジョンやクレドが役に立つのは、どのような場面なのか考えてみましょう。
筆者は「採用時」にはある程度役に立つものと考えています。
つまり求職者と会社がマッチングを図る際、会社は考え方や目指すものに共感ができる人を採用したいし、求職者もこれらに共感できることが会社選びの一つの判断材料になるでしょう。このような理由から、採用時には一定の効役割を果たすと考えています。
これに対して退職する人の心の中はどのようなものでしょうか。
退職する人へエグジット・インタビューを行っても真意を引き出すことは非常に難しいものですが、退職者の退職理由はクレドやビジョンの浸透のような漠然としたものではなく、もっと個別具体的なことが原因となっているはずです。その具体的な理由とは、おそらく「人間関係」と「評価に対する不満」がツートップでないでしょうか。

退職理由
① 人間関係
多くの社会人にとり人間関係が最大の悩みの種ですが、経営の観点からは従業員の人間関係を考慮してはいられないので、人間関係を理由にある程度の退職が生じるのは仕方ないでしょう。
ここで問題にしたいのは、上司と部下でその態度が急激に変わる「ゴマすり型」の人材が生み出す人間関係の悪化です。ゴマすり型人材は、部下や同僚には評判が悪くても、上司には気に入られることが多く、厄介な存在となります。
② 評価に対する不満
評価に対する不満は、目標による管理(MBO)のように事前に評価尺度をすり合わせておくと、ある程度は無くすことができます。しかしほとんどの会社は、人事評価制度を作ってもその実態は「好き嫌い人事」による評価となっています。
部下の能力や貢献度よりも好き嫌いで評価を決めてしまう「好き嫌い人事」は、上司にとっては楽な環境を生む手法ですが、部下にとっては不満の温床となります。
また「好き嫌い人事」の下では、ゴマすり型人材が評価されることが多くなります。
このように考えていくと、好き嫌い人事が従業員の不満をつくり、ゴマすり型人材を出世させてしまいます。ではなぜ「好き嫌い人事」がまかり通るのでしょうか。
退職理由の根源
問題の出発点は、ほぼ間違えなく社長に行きつくと考えています。
筆者の経験では、ほとんどの場合、社長が「過度にワンマン」であり、そこから「過度に好き嫌い人事」を行っていることが、すべての出発点と言えるからです。
ワンマン社長の場合、自分の意見に反対する者をすぐに排除し、周囲におく人材は社長の好き嫌い人事で選んだイエスマンが占めることになります。その結果、社長の取り巻きは、仕事の能力や会社への貢献度などよりも、イエスマンである方が重宝されることは周知の事実だと思います。このような取り巻きは、社長のご機嫌をうかがうことを重視するゴマすり型人材であることは必然の結果ですね。
このようにして社長の周囲や中間管理職に仕事ができないにも関わらず評価されることになるため、下の人間は評価に対する不満が高まります。このような「ゴマすり型人材」は社長に心地よいことを話し、そのために無理や矛盾を下に押し付けることが多くなります。このような中間管理職とは良い関係を続けることも難しくなるのは当然の結果ですね。
原因を突き詰めていくと、大量退職の本当の原因は社長にある可能性が高いです。
さいごに
今回は従業員の退職の理由とその根源について言及しました。従業員の退職を減らしたければ、その理由を改善しないと効果は無いものなので、社長自身も改める部分が必要かもしれません。
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