1斤800円(当時)もする高級パンという新たなマーケットを切り開いた乃が美。一時期は高級パンがブームとなり、乃が美のショップにパンをもとめる行列の風景はSNSやニュースで報じられるほどでした。しかし最近はブームが去り、乃が美は苦戦をしているようです。では乃が美がどのようなビジネスモデルであり、なぜ現在は苦境に陥っているのか見ていきましょう。

ビジネスモデルの概略
大阪で2013年に創業した食パン専門店です。「生」食パンという看板商品一本で、創業から6年8ヶ月で全国47都道府県に173店舗の出店を達成するほど、事業を急成長させています。また下記のような受賞経験もあり、話題性に富んでいます。
パンオブザイヤー2016 食パン部門金賞
yahoo検索大賞2017
yahoo検索大賞2018
yahoo検索大賞2019

「乃が美」の創業者である阪上氏が食パンをつくろうと思ったきっかけは、老人ホームへの慰問活動の中で、「食べているときと笑っているときが一番幸せ。でも朝食に出るパンは耳が固くて食べられない」ということを知ったことのようです。
そこでパンの素人であったにもかかわらず自ら研究を重ね、耳が柔らかい食パンを完成させます。その後に起きた高級食パンブームは覚えている方も多いでしょう。
競争優位性
乃が美が成功した要因はどこにあったのか、まずは4Pで考えます。


上記のように4Pがまとめられますが、更にここからコアコンピタンスを詰めていくと、「柔らかい高級食パン」がほとんどすべてとの見解に行きつきます。柔らかい高級食パンが話題をつくり、客を呼び、プレミア感を醸成しています。
ビジネスモデルの問題点
前述のとおり、乃が美は食パン、価格設定、包装パッケージ等という外から簡単に判別できるものに競争優位性を置いています。この簡単に判別できる競争優位性こそが、乃が美が切り開いた新規マーケットで優位性を長期間維持できなかった最大の原因であったと考えられます。つまり、おいしいパンつくる、高い価格設定とする、高級感のある包装パッケージをつくるという作業工程だけであれば、ビジネスモデルの模倣は決して高いハードルではなく、ブームとともに注目を集めれば模倣するパン屋があらわれます。これが高級パンブームにより、高級食パン屋が雨後の筍のようにあらわれた理由だと考えられます。
これに対し前回言及したBASE FOODは「完全栄養食」を掲げつつも食品そのものを競争優位性とみておらず、ITを利用した顧客ニーズの収集や販売力、R&D等の無形のノウハウに競争優位性を置いていました。このように無形なノウハウが強みであると、競合他社には強みがわかりにくく、また真似しようにも模倣困難性は高くなります。
競争優位性をどこに設定するのかにより模倣困難性が大きく異なり、結果としてBASE FOODと乃が美の成否を大きく分けたと分析できます。外から見ていると、BASE FOODにはビジネスモデルをつくる戦略家がおり、乃が美には良いパン職人はいたものの戦略家がいなかったように思えます。
FC展開とトラブル
多店舗展開を目指すとなると、自己資本では出店スピードに限界があります。そこで利用される契約形態がFCです。
FC契約とは、ある事業者が開発・構築した独自商品や店舗運営のノウハウを、別の事業者は「フランチャイズ契約」を結んでそのノウハウを使用して営業を行い、互いに利益を得ようとすることになります。
このように乃が美のノウハウをもらう対価として、FCオーナーはロイヤリティを支払いますが、この本部に支払うロイヤリティ料が高すぎることが問題となっているようです。
「文春オンライン」の報道によれば、高いロイヤリティが原因となり引き下げを求めたFCオーナーが乃が美の本部を訴えたようです。
訴訟内容について詳細には触れることはしませんが、乃が美はクレアシオン・キャピタルのもとIPOを目指しているため計画通りに利益を計上したい誘因が強く、FCに不相当の負担を求めていた可能性があります。
乃が美の直営店は16店舗(2022/12時点)のみであり、大半を占めるFCが成長の原動力であったにもかかわらず、そのFCとの関係が悪化したことの影響は大きいようです。2022年12月に20店舗近く閉店しており、ここ1年間で40店舗が閉店する状況に陥っています。多店舗展開する業種にあっては、不採算店を閉店するスクラップ&ビルドは普通の事ですが、これだけの店舗数が撤退していくことは異常事態ではないでしょうか。
乃が美のビジネスサイクル
乃が美のビジネスサイクルを簡単に下記にまとめてみました。ビジネスモデル30年限界説と表現されることがありますが、乃が美は今年(2023年)で創業から10年。3倍の速度で駆け抜けたのでしょうか。
高級食パン市場を開拓
↓
競争優位性が模倣容易
↓
高級食パンブーム到来
↓
模倣店乱立
↓
供給過剰
↓
飽きられブーム終焉
↓
高級食パンが売れない
↓
FCに高ロイヤリティ負荷
↓
FCとの関係悪化
↓
今に至る
コンサルティングするなら
もし乃が美が筆者にコンサルを求めてきたなら、どのような戦略を採っていたのか考えてみます。
競争優位性は模倣困難性を最重要ポイントとして考えます。したがって、顧客の趣向の調査手法、マーケティング方法および店舗開発に独自のノウハウが蓄積できたかどうかを判断し、出来ていると判断すれば事業拡大へ舵を切るでしょう。
拡大にはFC展開は不可欠ですが、ワークマンを参考にしてFCを一方的に支配するような関係にはしなかったでしょう。
ハイエンド商品であることから需要量より供給量を絞るようにし、プレミアム感やブランド力を無くさないように供給量のコントロールに注意するでしょう。
おそらく最低でも上記の3点をアドバイスしたことでしょう。
さいごに
創業者の阪上氏は2022年2月に乃が美を離れ、現在はお芋スイーツ専門店「高級芋菓子しみず」という事業を展開されています。創業者がすでに乃が美と元を分かれている事実は、一つの時代の終焉を感じる人が多いことでしょう。やはり飲食業は難しい!
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