スピンオフ上場事例研究(カーブスHD)

平成29年度税制改正により、特定事業を切り出し独立会社とする手法として、スピンオフ税制が導入されました。似たような組織再編手法は存在していたものの、課税関係の観点から利用されていなかったため、迅速な経営決定を可能にする一つの手段として整備されたものです。今回は2020年3月2日にスピンオフ上場したカーブスHDの事例を見ていきましょう。





1. スピンオフとは

スピンオフとは、一般に、株主に対して、会社の事業を切り出して設立した子会社の株式又は既存の子会社の株式を交付することにより、事業又は子会社を切り離す行為を言います。税務上のスピンオフを適用するためには一定の要件を充足する必要がありますが、その内容に関しては別記事で解説していますので、そちらをご参照ください。




2. ストラクチャー

カーブスHDがスピンオフ上場するにあたり重要な役割を果たすのが、完全親会社であったコシダカHDです。カーブスHDは、もともとコシダカHDの100%子会社であったものの、コシダカHDが保有していたカーブスHD株式をコシダカHDの株主に現物分配することにより(緑矢印)、コシダカHD株主の兄弟会社となったのちIPOしています。



この制度が制定する前にこのストラクチャーを実行すると、コシダカHDに譲渡損益が発生し課税が生じる可能性があり、またコシダカHDの株主には配当課税がなされていました。しかしスピンオフ税制を利用することにより、いずれも課税を受けることなくこのストラクチャーを実行することができるため、使い勝手が良くなりました。

しかし以前の記事に書きましたが、まだまだ改善の余地はあるようで、一部持ち分を残したスピンオフや完全子会社以外もスピンオフをできるように制度を拡充するように、経済産業省が令和4年度税制改正で実現するように要望を出しているようです。




3. 株主構成の変遷

下表はカーブスHDの主要株主の変遷を示したものになります。なお、ファンドや金融機関が株主の場合は、説明の重要性から記載を省略しています。



① 役員の3名は2018年12月7日以前、ごく少数ですがカーブスHDの株式を保有していました。しかしスピンオフ税制の適用を受けるためにはコシダカHDがカーブスHDの株式を100%保有することが条件となることから、2018年12月7日にコシダカHDが役員からカーブスHD株式の譲渡を受けて完全子会社化しています。このため2018年12月7日をもってコシダカHDの完全子会社となっています。


② カーブスHDの役員には経営上一定のコミットさせる観点およびスピンオフ税制を適用させる観点から、役員3名ともに新株予約権を割り当てており、IPO後すぐにこの新株予約権の権利行使する旨がⅠの部に記載されています。下表はIPO直前の株式のみの持株比率および潜在株式を含む持株比率を示したものになり、役員3名に10%相当の新株予約権を割り当てていることが分かります。

   

③ 2.ストラクチャーで記載した通り、IPOによりコシダカHDの株主にカーブスHDの株式が株式分配されるため、株式分配時点のコシダカHD株主の株主構成と同じなります。


④ IPOしてから初年度末を迎えるまでに、Ⅰの部に記載の通り、役員は新株予約権を行使し株式を保有しています。



一連のストラクチャーが完了したと思われる④の初年度末時点で、腰高一族、その資産管理会社、役員を合計すると、少なくとも48.81%程度は保有していることになります。この少なくとも48.81%という持株比率は、上場会社の場合、事実上は株主総会の過半数を抑えているといえ、支配権の観点から問題ないと言えるでしょう。


ここがスピンオフでIPOする際の重要ポイントと言えます。IPO後も支配権を維持しないと経営は混乱することになりますので、スピンオフによりIPOするには親会社の株主構成に支配株主がいることが絶対条件となると言えるのです。




4. 関連当事者取引の観点

関連当事者取引の観点から考察すると、IPOの審査を経ているため、関連当事者取引は綺麗に整備されることになると言えるでしょう。


① カーブスHDの役員には、もともとはコシダカHDの腰高一族が役員に就任していました。しかしコシダカHDと親子上場の関係になることを防ぐために、カーブスHDがIPOするに先立ち腰高一族は役員を辞任しています。


② カーブスHDはコシダカHDやその子会社との取引がありましたが、こちらもカーブスHDがIPOするに先立ち取引を解消しており、IPO時点では関連当事者取引に該当する取引はなくなっています。




5. さいごに

カーブスHDのスピンオフIPOは第1号案件として注目されました、2022年現在でもそれほど適用例が多いとは言えません。使い勝手の良い制度に改善されるまでには、まだまだ道半ばであると言えましょう。

以  上